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2001/08/16 |
父親へ |
確実に死にゆく親父へ。
あたしは、親父に言えてない事が有る。
今のままじゃあ誇れないけれど、今のあたしにとって一番大事なものが有る。
親父の頭はフルに活動していても、それはモルヒネで見る幻影だ。
仕事の事ばかりうわごとのように言う親父、死ぬる時に、あなたは誰を呼ぶのだろう。
仕事ばかりで苦しい思いをして、何も得られなかったような気がして、
あたしは、貴方が可哀相でならない。
娘に同情される貴方が可哀相だ。ごめんよ。
軌道に乗って理想に近づいていた優良な仕事を、自分の手で閉めた・。
男としても・親としても・まだ途中じゃあないか?
その衰退を、自分で見つめないといけない、あんたが憐れでならない。
あたしは、伝えたかった。
わかって欲しかった。
まだあんたに認めてもらっていない・受け容れてもらっていない。
見せてすらいない。
心のどこかで、「正しい事だとしたら、パパにならわかってもらえる」と思っていたらしい。
貴方は理論的だから。
感情に左右されても留まるよね?
あたしは信じてるんだ・縋ってるんだ。何度か痛めつけられても、どこかで信じてる。
正しい事なら、貴方は理解する。理解されないなら、間違っているんだ。
母には一生言えないよ・。苦痛だろうし、あたしも苦痛だ。
大事な人に理解されない事は、こんなにも苦しい。
死んだら何も伝えてもらえない。
でも、今の貴方も何もあたしに伝えない。
痛みを代わってあげられるなら、貴方は私にもっと伝えてくれるだろうか・。
お父さん、私には貴方が必要なんだ。
良い娘ではいられないよ?
我を通すよ?
貴方に従う事は出来ないよ?
諌めてくれないのかい?
パパ・行かないでよ。
やだよ。
好きとかじゃない。むしろ嫌いだ。あたしに似てるから・なのに根本が違う。
散々迷惑掛けたのに泣くなんて、そんな事許されて良い筈がない。
だから、あたしは泣けない。
独りになっても泣いたりしちゃいけないんだ。でも、嫌だ・不安だ。涙が出る・嗚咽がもれる。
代わりが効かないものがなくなるのは、嫌だよ。
一番最初に貴方に話して、議論して、分かって貰えれば、持ち続けて良いような、認めてもらえるような、間違っていないような、そんな気がしてたのに。
あんた自身も途中だけど、私だって途中なんだよ。母を、置いてくなよ。
誰なんだよ、父をこんな目に遭わすなよ。
納得いかないよ。
あたしのちっちゃな脳みそと脆弱な魂に、大きな疑問を捺すな。
お前は泣いちゃいけないんだ・って、脳の奥で言ってる。
解かってるよ。葬式でも泣かないよ。
何も出来ないあたしが泣いちゃいけないんだよ。解かってるよ。
今は仕方ないだろ???
嫌だって気持ちを、こんな気持ちを、どうやって外に出せばいいんだ??
あたしには、大事なものが有る。
一生のうち、人は一体どれくらいの事を獲る?
自分の身の中に起こった幾つもの矛盾を、どうやって鎮めれば良いんだ?
貴方は、何をコンプリートさせた?
父よ・あたしは貴方の思いに従えない。
でも今の貴方には、その思いすら残っていない。
あたしは、貴方をこんな目にあわせたものが憎くて堪らない。
憎んでも意味も無い事を、頭では同時に理解しているけれど。
どうか・生きているうちに伝えて欲しかった。
けれど、貴方は私にもう何も伝えない。
自分の中に篭ってしまった。
去り際に何も伝えきれないのなら、あたしもあたしを代わりの効かない者、とする人に触れるべきではないのだろうか、関るべきではないのだろうか。
わたしは、その人にこそ触れたい・。
その人だけに触れよう。
短い生ならば、私の想いの総てをその人に伝えたい。伝えられたい。
私がそう想っている現在の相手が同性である事を貴方が望む人生を私が歩もうとしているように見えるのがその人有るがゆえである事を・結果としては外れている事を、貴方は知らない。
父よ、それで良いのか?仕方のない事であろうと、
健康であれば伝えていた時期で無かろうと、取り返しが効かなくなるのが、私は、嫌だ。
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written by 信乃 |
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