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08/20 update |
「コーヒーの告白」
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「私のこと、どれくらい好き」
と彼女に聞かれたら、あなたならどう答えるだろう。
これまでたくさんの友達にこの質問をしてきたが、たいていは
「どれくらいかなんて示せない。示せるなんてその程度の愛でしかないってこと だ」
という結論に終わる。けれどもたった一人だけこう答えた友達がいる。
「コーヒーが飲みたい」
意表を突くにもほどがある、というか、“どれくらい好き”ときかれて“コーヒー が飲みたい”だなんて、答えになっていないどころか、会話にすらなっていないでは
ないか。私は半ばあきれてその友人にこう言った。
「英会話を勉強する前に、日本語の勉強をした方がいいよ」
「ちゃんと最後まで聞けって。“コーヒーが飲みたい”の後には続きがあるんだ」
「どんな」
「“君の家で、君がいれるコーヒーが飲みたい。それぐらい好きだ”……ほら、イケてるだろ」
「よくわかんないけど、それって“君と朝まで一緒にいたい”っていうこと?」
「ばか、違うよ、違う。ぜんぜん違う」
「じゃあ、どういう意味」
「私はコーヒーを毎日1リットルぐらい飲むんだよ。普通の店でも飲むし、家にいるときには自分でドリップして飲むんだ。私とつき合えば私がコーヒーずきってことはすぐにかわるから、いままでつき合った子たちはみんなそうだったんだけど、私が家に遊びに行くとみんな真っ先にコーヒーを入れてくれるんだ。でも、人の家にもかかわらず、私は絶対に自分でコーヒーを入れるんだ。普段からやり慣れてる私がいれた方が絶対においしいからね。これって相当失礼なことだよね。だって、“私がいれたほうが上手いから”って言って、彼女にはコーヒーをいれさせないんだもん。こんな私がだよ、こんなにコーヒーの味にうるさいこの私がだよ、“コーヒーが飲みたい。君の家で、君がいれるコーヒーが飲みたい。それぐらい好きだ”って言ったら、彼女は涙がでるほど嬉しく思うんじゃないかな」
うーん、何だかわかったような、わからないような。でも、“コーヒーが飲みたい”っていうのは、こいつにとっては最大、かつ最強の愛情表現なんだな。そうか、こいつの入れるコーヒーってそんなに美味しいのか。どんな味なんだろう。ちょっと飲んでみたいなぁ……
「コーヒーが飲みたいな」
ぼーっとしていた私の耳に、友人の声が突然乱入してきて、私は思わず声を裏返して聞き返した。
「えっ?」
「スターバックスでも行くか」
なんだ、びっくりさせるなよー。一瞬、口説かれたのかと思っちゃったじゃん。
そんなことを考えてしまった私の顔を彼女は見逃さなかった。
「何がっかりしてんだよ。ほら、行くよ」
スターバックスで豪快にGrandeサイズを飲み干しながら
「自分で入れるコーヒーの方がはるかにおいしい」
とスパッと言いきる彼女にコーヒーを入れるのは、一体どんな子なんだろう。
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written by 3%ノンフィクションライター伊達カヲル |
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