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98/10/19s update
「ワタシであることについて」 |
「YOUNG YOU」というコミック誌に、ついこの間、レズビアンを描いたマンガが載って いた。
それがこの人、榛野（はるの）なな恵さんのマンガだったので（表紙が「女ふたり」だ し）、ずいぶん早いな、ちょっと印象が違うなと思いながらも買ったのが『ダブルハウ
ス』。残念ながら考えていたものではなかったのだけれど、これもいい（あ、いま思い 出した。くだんの作品は『ピエタ』というのだ）。
ニューハーフのマホと、彼女に一目惚れした元お嬢様現ビル清掃人の藤子の、とてもや さしい物語なんだけど、とてもストレートな言葉で世間の枠をぶちこわしている。しか
も壊すのは、枠から逸脱しているマホではなく、藤子のほうなんだ。
「人間には額ぶちにきちんとおさまる人とおさまらない人がいると思うんです」 と藤子はいう。
ニューハーフであるマホは、男というはじめに与えられた額ぶちをぬけだし、かといっ て女という額ぶちがしっくりくるわけでもない。ちょっとイレギュラーなニューハーフ
という額ぶちに入っているというところか。
けれどほんとうは、額ぶちなんて必要ないんだ。それが自分に合わないものならもちろ ん、例えぴったりと合うものでさえも。
男にしか見えない広すぎる肩幅を気にするマホに、藤子はさらにいう。
「男とか女とかはどーでもいいんですっ。マホさんはマホさんとして個別の独立した存 在としてステキであればいいんですっ！」
つい最近「２８歳の女」をやめたワタシにとって、これはなかなか気持ちのいい言葉だ 。まあ、ステキかどうかはともかくだな、ワタシもただ、ワタシであればいいのだと思
う。
女性らしさだとか（あるいはレズビアンらしさだとか）、２８歳にふさわしい言葉遣い ・分別だとか、そんなものはどうだっていいじゃないか。
誰がなんと言おうと、私は２８年間かけてここにこうしている。それは誰にも否定のし ようのない事実だ。
ワタシが誰かに対して抱く感情にさえ、額縁も名前もいらない。
その人を好きだと思うこと。信頼すること。尊敬すること。それからほかにもいろいろ なスパイスを入れてミキサーにかけたら、はい、私の気持ちのできあがり。愛情にしろ
、友情にしろ、別の言葉で言い換えなくたっていい。
ただね、しっかりとワタシでありたいと思う。なぜ自分がここにこうしているのか、ワ タシは何者なのか、ほかの人にはわからなくてもいいから、ワタシ自身はわかっていな
ければ、と思う。
そうじゃないいと、ほかの曖昧なモノたちに押し倒されてしまうから。
物語の最後、マホは青い水の中を泳ぐ夢を見る。
「誰も私を名付けない／誰も方向を示さない」
「でも何も／こわくなかった」
（『ダブルハウス』／榛野なな恵／集英社ヤングユーコミックス／５３０円）
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| 鈴木満月
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コラム