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98/09/05s update
「テレパシィについて」

こんなタイトルをつけると、超能力だのなんだの、くどい話が始まりそうだけれど、
もっとたわいもない話なのだ。

ワタシには何人かの友人がいる。
28年生きてきたにしては、ちょっと少ない数かも知れない。
充分よ、多すぎるわ、と思う人もいるかな。まあともかく何人かいる。
ネット上で出会った(≒同じセクシュアリティの)友人はおいといて、何人かの中のさらに限 られた数の人間には、私が今好きなのは女性だということを話した。
ちなみに話すときの第一基準は「ふたりで酒を飲みたい人間」だ。

その中のひとりに、H氏という男がいる。学生時代に出会って、漬かるほどの酒を何度も 酌み交わした友人だ。やつにはテレパシイがある。
待ち合わせの暇つぶしのためだけに九州からワタシのいる埼玉まで携帯で電話をかけて くるお茶目なやつなのだが、やつの電話は実にツボにはまる。ワタシが弱り切っている ときに限ってかけてくるのだ。

ワタシはたちの悪い片思いをしていて、相手は私の気持ちを知っているのだけど、ただ いま3年間の執行猶予中である。そうではあるが(ワタシはもちろんのこと、彼女にと っても)一番気心の知れた友人でもあるから、週に一回程度は食事を一緒にするし、シ ーズンに一回程度は一緒に旅行をしている。
彼女がなるべくたくさんの人と会い、話を出来るよう、彼女が好奇心を持った(あるい は持ちそうな)場所にはできるだけ誘うようにしている。Club Bravissima!もその一つ だし、ワタシの職場でやったイベントもそうだった。

職場で、ワタシは彼女を友人と紹介する。それは嘘ではない。社会的にカミング・アウ トをしていないから、好きな人、片思いの相手だとは言わない。
その結果、職場の人間が彼女をデートに誘った。ワタシを含め、何人かで出かける誘い だと勘違いしたらしい彼女は、承諾した。

なぜ言えないんだ?

もしもワタシが(あるいは彼女が)男だったら、ワタシはきっと「好きな人」だと紹介 するだろうに。
考えに考える。エゴイズムと嫉妬の塊になって、それに嫌気がさして冷えはじめる。い ったん冷えれば、非常に内省的になってしまうのがワタシの悪い癖だ。あらゆることの 原因は自分の中にこそある、というのがワタシの持論なのだ。


おかげさまで、いまやワタシは立派な感情人間である。彼女を誘った男がどれだけ面白 味のない人間だか知っているからまだしも平静を装ってはいるものの、脳みそはどろど ろだ。
で、そういうときに限って、H氏は電話をかけてくるのだ。これをテレパシィと呼ばずし て何という?

やつは「元気にしてるか」と聞く。

見透かされているようで口惜しくて、ワタシは「もちろん」と答える。

10分、20分、近況報告をしたり、共通の友人について話したりして、またな、と言 い合って電話を切る。
後で、ワタシはやっぱり泣いてしまった。

ワタシにもテレパシィはあるだろうか。
どこかで誰かの心が痛んだときに、ワタシはそれを察知できるだろうか。
ワタシはそれに気づかなくてもいい。
H氏が自分の超能力を知らないように。
 鈴木満月

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