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連載「変容する国家」第2部 「ヨーロッパ奔流」5〜要塞化 vs. 移住社会


差別逃れ世界中から 同性愛者「ここは天国」 寛容さが流入者増やすジレンマも

「故郷は冷たい。今でも僕らは変わり者。祖国に戻るつもりはないよ」
ブリュッセルの場末にあるゲイバーでロドルフ・コスタさんは(50)はそう言ってほほ笑み、パートナーと顔を見合わせた。相手もまた、同じ表情でうなずいた。

欧州で暮らす移民の中には、ここが世界の中で最も同性愛者に対する差別撤廃運動が盛んという理由で移り住んだ人が少なくない。カトリックの保守性が濃く残る南米では今なお、ゲイやレズは社会の異端者だ。アンデス山脈のふもと、アルゼンチンのメンドサで育ったコスタさんが周囲のいじめに耐えかねてスペインへ移住したのは26歳の時だった。

地中海を望むバルセロナを選んだのは、ピカソやダリが愛した芸術の町だからだ。言葉が通じるのはもちろん、本職の陶芸教師として暮らすにも抜群の環境。当時のスペインは厳しい移民規制がなく、移住するのも簡単だった。また同性愛者だからと仕事で差別されることもない。15年間一緒に暮らしたパートナーと別れ、6年前に今の相手のエンリケ・ゴングラさん(40)と知り合った。

ペルー・リマで生まれたゴングラさんも周囲の偏見から逃げるようにして16年前、スペインに渡った。同じような境遇を持つ2人はごく自然に親しくなった。
 欧州や中南米にある同性愛者運動の組織を束ねる団体「イルガ」《注》で働くゴングラさんは1年半前、本部があるブリュッセルに移った。いわば“単身赴任”。「毎月、どちらかが通うのはもう限界。春にはバルセロナに戻って仕事を見つける」と話している。

◆     ◆     ◆

しかし、彼らの生活様式を認める社会は世界の多数派ではない。イランやサウジアラビアなどでは同性愛行為は最高で死刑。法律で禁止しているイスラム諸国に加えて、宗教や習慣にそぐわないとの理由で差別され、時には迫害を受ける地域が今なお多い。「イルガ」によると、同性愛者として迫害を受けたことで難民として認定する国は欧州13カ国と米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカだけだという。

欧州41カ国が加盟する欧州評議会(本部・仏ストラスブール)は昨年2月、「加盟国は同性愛者への差別をなくすべきだ」との異例の報告書を出した。報告書は、同性愛者が社会的に公認されていないことが不必要な移民を誘発したり、難民受け入れの際に同性愛のカップルが一緒に暮らせない環境が頻発している、と批判している。

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欧州や北米では、同性愛者への差別が比較的少ない。とりわけ、オランダはその象徴的な存在だ。首都アムステルダムは「ゲイの都」とも呼ばれる。同市役所によると、人口75万人のうち10%以上が潜在的な同性愛者だとみられる。町には百数十店のゲイバー・カフェがあり、同性が仲良く手をつないで歩いていても誰も振り向きもしない。

オランダ最大の同性愛者差別撤廃組織「COC」のアムステルダム支部国際支援担当、ヘンク・ファンペルトさん(50)は、「そういう生活環境を求めて、オランダに渡ってくる“ゲイ移民”は年間200人を下らないだろう」と語る。オランダでは1996年に同性愛差別が禁止され、それ以来、政府が受け入れる難民や移民にも同性愛者が珍しくなくなった。同性愛の難民の実態は明らかでないが、年間40人ほどが迫害を逃れたアラブ諸国からの人たちだという。残りは冷戦後に西欧への流入が増えた東欧の人たちが、不法滞在のまま住み着いている。

COCでは4年前から各国の同性愛者運動団体を支援し、彼らが祖国で暮らせる環境を作るためのプロジェクトを始めた。「確かにここは暮らしやすいかもしれない。でもいつまでも逃げ場所のままではだめなんだ」とファンペルトさん。

オランダでは昨年、法改正を終え、今年4月からは世界で初めて同性愛者が普通の夫婦と同じように親権や遺産相続権を完備した条件で正式に結婚できるようになる。まさに「理想的な国」が誕生する。さらに整った環境は、性の次元でのまれな移民を増幅させるかもしれない。

【欧州問題取材班】

★この記事は、大阪の華房さん、名古屋のH.T.さんから送っていただきました。ありがとうございました!

★ 《すこたん企画 伊藤さん・注&コメント》  ここの「イルガ」の説明は、誤りで、「イルガ(ILGA)」とは、“THE INTERNATIONAL LESBIAN AND GAY ASSOCIATION ”=「国際レズビアン&ゲイ連盟」の略で、1978年に創設され、世界80ヶ国から約350団体が参加して、レズビアン&ゲイ&バイセクシュアル&トランスジェンダーの権利を獲得するために、活動しています(日本からも3団体加盟しています)。サイトには、世界各国の、セクシュアル・マイノリティがどんな状況に置かれているかの情報(差別のあり方・結婚制度とのかかわり・法律的制限など)や最新のニュースが詳細にあります(日本の項では、アカーの「府中青年の家裁判」も載っています)。

それにしても、どうして、「レズ」と書くんだ!ちゃんと「レズビアン」と書けっ!いったい何年経ったら、この国のマスコミは、セクシュアル・マイノリティに関して、ちゃんと学習するのだろうか。

情報提供:すこたん企画

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